Google I/O 2026には主役が二人と、脚注が一つあった。主役はGemini 3.5 Flash——ほぼ全ベンチマークでGemini 3.1 Proを上回り、競合frontierモデルの半額以下を主張するモデル1——と、Gemini Omni Flash——テキスト・画像・音声・動画の任意の入力組み合わせから動画を生成する初のモデル2。脚注はGemini CLIの廃止、移行期間わずか1ヶ月3。
しかし、Shoreline Amphitheatreの誰も声に出して言わなかったことがある:DeepSeek V4-Flashは3.5 Flashのできることの8割を、10分の1の価格で、MITライセンスのオープンソース重み付きで実行できる。能力が「十分」の線を越えたら、競争は「誰が賢いか」ではなく「誰が安いか」になる。それがI/O 2026の本当の話だ。
3.5 Flash:勝つほど良く、負けるほど高い
ベンチマークの話はシンプルだ。3.5 Flashはほぼ全ベンチマークで3.1 Proを上回る1。Pichaiはこう言った:「3.5 Flashは3.1 Proより優れている。3.1 Proはわずか4ヶ月前のモデルだ。frontierモデルの約90%の性能を持ち、4倍の速度で、コストは約3分の1から2分の1」4。
だが「半額」とは誰との比較か?全体像を見よう:
| モデル | 入力 $/100万token | 出力 $/100万token | ライセンス | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| DeepSeek V4-Flash | $0.14 | $0.28 | MIT オープンソース | 13B アクティブパラメータ、SWE-bench ~79% |
| DeepSeek V4-Pro (プロモ) | $0.435 | $0.87 | MIT オープンソース | プロモ終了5月31日 |
| DeepSeek V4-Pro (通常) | $1.74 | $3.48 | MIT オープンソース | SWE-bench 80.6% |
| Gemini 2.5 Flash | $0.30 | $2.50 | クローズド | 前世代 |
| Gemini 3.5 Flash | $1.50 | $9.00 | クローズド | 新リリース |
| GPT-5.5 (推定) | ~$2.50 | ~$15.00 | クローズド | 競合frontier |
| Claude Opus 4.7 | ~$3.00 | ~$15.00 | クローズド | 競合frontier |
3.5 FlashはGPT-5.5やClaude Opus 4.7より安い。しかしDeepSeek V4-Flash——MITライセンスで自分でホストできるモデル——は入力価格が10分の1、出力価格が32分の1だ。V4-ProのSWE-bench 80.6%はClaude Opus 4.7の80.8%とほぼ同点で、出力価格は7分の18。
さらに厄介なのは自社比較だ:
| モデル | 入力 $/100万token | 出力 $/100万token |
|---|---|---|
| Gemini 2.5 Flash | $0.30 | $2.50 |
| Gemini 3.5 Flash | $1.50 | $9.00 |
入力は5倍、出力は3.6倍の値上げ。GoogleはFlashラインでお得なアップグレードを提供しているのではなく、性能がPro級になったからプレミアムを課している。
転換点:「十分」を超えた瞬間
ここに重要な論点がある。ほとんどの本番ワークロードにおいて、問題はもう「モデルはこれができるか」ではなく、「どれだけのコストで『十分』な結果が得られるか」だ。
V4-Flashが$0.14/$0.28で分類・要約・通常コーディングという8割の規模タスクを処理できる場合、残り2割のために3.5 Flashに10倍の金額を払う正当性は、そのシナリオが業務に決定的な影響を持つ場合にしかない。Googleはこれを理解している。だから3.5 FlashのPositioningは自社Flashユーザーのアップグレードではなく、競合frontierの代替だ。
社内の規模数字は需要の話を裏付ける:3月の日処理5000億tokenがI/O時点では3兆tokenを超えている1。これは規模がモデルを改善し、モデルがユーザーを引き付け、ユーザーがデータを生む飛輪だ。
Omni Flash:任意入力、任意出力の瞬間
3.5 Flashが「frontier知能が高すぎる」問題を解決するなら、Omni Flashは「AIは一つのことしかできない」問題を解決する。
Omni Flashはテキスト・画像・音声・動画の任意の組み合わせを入力として受け取り、動画を出力する2。将来のリリースでは画像とテキストの生成も追加される。Hassabisの長期ビジョンは「あらゆる入力からあらゆる出力を生成する」ことだ9。
| 入力タイプ | 現在の出力 | 計画中の出力 |
|---|---|---|
| テキスト・画像・音声・動画 | 10秒動画クリップ | + 画像・テキスト |
| カメラロールのアップロード | 単一キャラクターアバター | マルチシーンナラティブ |
| 手描き・スケッチ | 対話型編集 | フルポストプロダクション |
技術的な差別化要因は動画生成能力ではない。Veoや他のモデルもそこはやっている。Omniの違いは、すべての入力モダリティを一度にテキストに変換するのではなく、横断的に推論することだ。物理法則(重力・流体力学・運動エネルギー)を理解し10、シーンをまたいでキャラクターの外貌と声の一貫性を維持し、撮影した動画を自然言語で編集できる。
これがプロダクトとして新しい理由だ。タイムラインエディタはいらない。「背景をビーチに変えて」と言えば、モデルが元の動きを保持したまま変更を適用する。これはテキストから動画ジェネレーターとは違う製品カテゴリーだ。
生成されたすべてのコンテンツにはSynthIDウォーターマークが埋め込まれる10。音声編集機能は安全性の観点から保留中10。
Omni Pro:待つ価値のあるモデル
GoogleはOmni Proの開発を確認しているが、「Flashを圧倒する飛躍」を示すときまでリリースしないとしている11。これは正しい判断だ。10秒クリップと対話型編集は消費者にとって十分だが、プロのユースケース——広告、映画制作、建築ビジュアライゼーション——にはより高解像度、より長い再生時間、より精密なコントロールが必要だ。Omni Proがこの飛躍を実現すれば、Stable Diffusionが画像生成にもたらした変革と同程度の変化を、動画制作にもたらす可能性がある。
脚注:Gemini CLIの廃止
最も小さな発表が最も大きな開発者の反発を引き起こした。2026年6月18日、Gemini CLIが停止し、すべての個人ユーザーはAntigravity CLIに移行しなければならない3。エンタープライズユーザーは影響を受けない。
Hacker Newsでのコメントは率直だった:「6ヶ月ごとに名前が変わったり廃止されたりするものの上にワークフローは構築できない」12。Googleの説明はアーキテクチャ的なものだ:単一エージェントのターミナルツールではマルチエージェントオーケストレーションに対応できない。Antigravity CLIはGoで書き直され、非同期処理をサポートし、Antigravity 2.0デスクトップアプリとエージェントハーネスを共有する3。しかし「30日通知であなたのツールを非推奨にする」というメッセージは、OpenAIやAnthropicが積極的に複数年契約を結んでいる市場では簡単に取り消せない。
参考文献
まとめ
I/O 2026の本当の話は基調講演にはない。価格表にある。3.5 Flashは2.5 Flashより5倍高い——性能が本当面に上がったからだし、支払う客がいるからだ。しかしDeepSeek V4-Flashは3.5 Flashの10分の1の価格で、MITオープンソースだ。「Frontier性能半額」という見出しは、V4-Flashの前ではニュースではなく交渉材料になる。
Omni Flashは違う——これは本当に新しい。「任意入力から一貫した動画出力」に物理理解と対話型編集が加わって、存在しなかった製品カテゴリーを作っている。Omni Proが登場するとき、Stable Diffusionが画像生成を変えたように、動画制作を変える可能性がある。
CLIの廃止は脚注に過ぎないが、Googleがプラットフォーム統合のために開発者の信頼を犠牲にする姿勢を示している。OpenAIとAnthropicが安定性を売っている時間に、Googleはスピードを売っている。市場がどちらをより価値あるものと判断するかは、まだ分からない。
Footnotes
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Google公式ブログ — Sundar Pichai I/O 2026基調講演 — 3.5 Flash ベンチマーク、価格、内部トークン規模、10億ドル節約試算 https://blog.google/innovation-and-ai/sundar-pichai-io-2026/ ↩ ↩2 ↩3
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Google I/O 2026公式まとめ — Gemini Omni:「あらゆる入力からあらゆる出力を、まずは動画から」 https://blog.google/innovation-and-ai/technology/developers-tools/google-io-2026-collection/ ↩ ↩2 ↩3
-
Google Developers Blog — Gemini CLIからAntigravity CLIへの移行 — 6月18日 deadline、Goリライト、共有エージェントハーネス https://developers.googleblog.com/en/search/?query=Gemini+CLI ↩ ↩2 ↩3
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VentureBeat — Google、Gemini 3.5 Flashで企業のAIコストを年間10億ドル以上削減可能と主張 — frontier性能90%を3分の1から2分の1の価格でというPichaiの発言 https://venturebeat.com/technology/google-says-gemini-3-5-flash-can-slash-enterprise-ai-costs-by-more-than-1-billion-a-year ↩
-
Gemini Developer API価格ページ — 全モデル公式価格 https://ai.google.dev/gemini-api/docs/pricing ↩ ↩2
-
BenchLM.ai — Gemini API価格分析(2026年4月) — 詳細な価格比較とリクエスト単価分析 https://benchlm.ai/blog/posts/gemini-api-pricing ↩ ↩2
-
DeepSeek API価格 — V4-Flash $0.14/$0.28、V4-Pro $1.74/$3.48(通常)、75%プロモは5月31日まで https://api-docs.deepseek.com/quick_start/pricing ↩
-
Codersera — DeepSeek V4 Pro vs Flash:ベンチマークと価格 2026 — SWE-bench 80.6%、Terminal-Bench 67.9%、価格 $0.14/$0.28 (Flash) と $1.74/$3.48 (Pro通常) https://codersera.com/blog/deepseek-v4-pro-vs-flash/ ↩
-
LatestLY — Gemini Omni正式リリース — あらゆる入力からあらゆる出力をというHassabisの長期ビジョン https://www.latestly.com/technology/gemini-omni-launched-google-unveils-new-ai-video-generator-at-io-2026-7437717.html ↩
-
Times of India — Google、AGIへの次の大きな一歩 — Omni 物理シミュレーション、SynthIDウォーターマーク、安全性保留 https://timesofindia.indiatimes.com/technology/tech-news/google-takes-next-big-step-towards-agi-launches-gemini-omni-what-is-it-how-it-works-and-more/articleshow/131210372.cms ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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Firstpost — Google I/O 2026:Gemini Omni Flash登場 — Hassabisライブデモ、Omni Pro「飛躍」発言 https://www.firstpost.com/tech/google-i-o-2026-gemini-omni-flash-arrives-with-more-accurate-ai-video-generation-than-veo-14012977.html ↩
-
Hacker News — Gemini CLIは2026年6月18日に停止 — 開発者コミュニティの反応 https://news.ycombinator.com/item?id=48196867 ↩